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「ジェノサイド研究の展開」プロジェクト概要


「ジェノサイド研究の展開」は日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業」領域U 「平和構築に向けた知の再編」のコア研究のひとつです。

本研究の目的は日本の人文・社会科学において未開拓の分野に属する「ジェノサイド研究」を確立し、「平和の構築」にいささかなりとも貢献することにあります。ジェノサイドは今なお世界各地で繰り返されています。本研究は、ジェノサイドに関する具体的な実証研究に基づき、比較ジェノサイド研究の理論化、すなわち研究枠組みの構築と予防論の確立に挑むものです。

本研究は 20 世紀に世界各地で生起した多様なジェノサイドを広く研究の対象とします。まず、これまで一般に「ホロコースト」として大掴みに理解されてきた第二次世界大戦下の虐殺行為を「ヨーロッパ・ジェノサイド」として位置づけなおし、これに人種主義と優生学、民族自決と強制移住、総力戦と殲滅思想など、近代国民国家批判の観点から多角的にアプローチします。これと並行して、 ジェノサイド問題が有する普遍性と今日性に留意しながら、第一次世界大戦下トルコでのアルメニア人虐殺、カンボジア、ルワンダ、グアテマラなど開発途上国でのジェノサイド、旧ユーゴスラヴィアでのジェノサイドなどに注目し、それぞれの背景と要因、過程と帰結を分析します。また、植民地支配や戦争遂行と関連して引き起こされたジェノサイド(性暴力や「文化ジェノサイド」も含む)、ソ連や中国など社会主義独裁下のジェノサイドにも注目し、 ジェノサイドの多様な形態とそのメカニズムを実証的に明らかにします。さらに、ジェノサイドが 地域社会の構造を根本的に変化させる点に注目し、 ポスト・ジェノサイド社会の再建と和解の可能性、さらに犠牲者のトラウマや記憶、表象の問題にも取り組むことになります。このように、本研究はドイツ・ヨーロッパ現代史を出発点としつつも、これを大きく越えて現代ジェノサイドの本質に迫ろうとする試みです。

方法論的には、個別実証面では主として歴史学、地域研究のディシプリンを用いますが、理論面では「構造的暴力」、「文化的暴力」、「人間の安全保障」など近年の社会科学の概念をいっそう精緻化して研究を行うことになります。本研究は、複数の学問領域にまたがり、専門の垣根を取り払って進められます。具体的には、これまで歴史学、地域研究、医学史、文化人類学、国際法、国際政治学、平和学、哲学などの分野でジェノサイド問題に関心を抱き、それぞれ専門の壁を乗り越えようと努力してきた中堅・若手研究者による共同研究プロジェクトとなります。