プロジェクト概要 / 研究課題と計画 / 研究班 / 参加研究者

研究班

@ジェノサイドの実態研究

 ◇ヨーロッパ
 ◇バルカン・中東・旧ソ連
 ◇アジア・アフリカ・南北アメリカ・オセアニア
 ◇東北アジア

A 近代諸概念とジェノサイド

 ◇人種主義・優生思想・福祉国家とジェノサイド
 ◇全体主義とジェノサイド
 ◇民族自決・強制移住とジェノサイド
 ◇総力戦とジェノサイド
 ◇植民地支配とジェノサイド

B ジェノサイド予防論

 ◇地域紛争とジェノサイド
 ◇ジェノサイドと国際法・国際政治
 ◇ジェノサイド後の社会変容
 ◇ジェノサイドの記憶と表象
 ◇反ジェノサイド教育

 

研究班<ヨーロッパ>

本研究班は、近代以降のヨーロッパを対象にジェノサイドに関する実証研究を積み上げ、その成果を踏まえて比較研究・理論研究を試みる。具体的な課題は以下の通り。

1.ジェノサイドの類型化
  比較研究のための基礎作業として、あらゆるタイプのジェノサイドを実行したナチ・ドイツに着目し、ジェノサイドの類型化を試みる。このテーマについてはわが国にもかなりの研究蓄積があるが、さらに世界の先端的な研究成果を吸収しながら、ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)だけでなく、ロマ人、心身障害者、同性愛者、労働忌避者など、ナチによって「価値なき者」のレッテルを貼られた集団に対するジェノサイドの背景、要因、過程、帰結を分析する。

2.ジェノサイド・メカニズムの比較研究
  第二次世界大戦下のヨーロッパで生起したジェノサイドの中から、ナチ・ドイツとクロアチアによるジェノサイドに注目し、それぞれのイデオロギーを分析したうえで、計画者と実行者、さらにはこれに協力した軍・警察・行政・現地住民の動機と行動様式を解明し、ジェノサイド発生の具体的条件と実行過程を比較検討する。ナチ・ドイツについては、ベルリン以上に重要な役割を果たした占領行政のローカル・イニシアティヴやポーランド人、ウクライナ人、民族ドイツ人の加担と協力について検討を加え、クロアチアについてはその排外的ナショナリズムが戦時下のいかなる条件下で急進化し、ジェノサイドを引き起こしたかを検討する。いずれの事例においても、犠牲者集団の抵抗・救助の可能性、傍観者の役割について分析のメスを入れる。

3.ジェノサイド思想の起源と展開
  異質な集団の殲滅をめざすジェノサイド思想の起源と展開を、「アウシュヴィッツの科学者」に通じる近代的合理主義と総力戦体制の諸要因に関連づけて解明する。とくに強制収容所システムの構築とともにドイツ社会に浸透した選別と排除の原理や、平時における強制断種政策が戦時の到来とともに「安楽死」政策に転換し、最終的にジェノサイドへの道を拓いたプロセスを検討する。

4.強制移住とジェノサイド
  第二次世界大戦下の東ヨーロッパでは現地住民の強制移住が頻繁に行われ、その過程でジェノサイドが発生した。ここでは、近代ヨーロッパの「国民国家原理」とナチ・ドイツの「民族再編構想」に基づく強制移住政策が排外的な民族主義と結びついてジェノサイドに逢着したプロセスを地域ごとに比較検討する。その際、戦後のポツダム協定によるドイツ人の東方からの大規模な追放政策も視野に入れる。

5. 戦争とジェノサイド
  ナチ・ドイツによるベオグラード虐殺、バビ・ヤール渓谷虐殺、リディチェ村虐殺、オラドゥール虐殺など、戦争遂行に関連して行われた局地的ジェノサイドを比較検討する。ここではナチ・イデオロギーを体現した親衛隊だけでなく、国防軍将兵が後方地域の治安戦の一環として実行した「殲滅戦」の展開過程を解明する。

6.国際社会の対応
  未曾有の大規模ジェノサイドを未然に防げなかった要因として、ナチ・ドイツに対する列強の宥和政策と国際社会の無関心を指摘することができる。ジェノサイドに関する情報が英米の指導者のもとに届けられていたにもかかわらず、それを公表して阻止する手だてを講じなかったのはなぜか。ジェノサイドをめぐる国際政治の力学を検討する。

7.比較研究への視座
  上記の研究を総括したうえで、トルコによるアルメニア人虐殺など他の大規模ジェノサイドとの比較研究を行うための枠組みを構築する。

 

研究班<バルカン・中東・旧ソ連>

本研究班は、東ヨーロッパ、中東、旧ソ連を主たるフィールドとして、近代以降の集団虐殺、強制移住、強制同化の実態の比較研究を進めていく。本研究班の作業指針としては 民族浄化という概念を設定している。民族浄化とは、ある民族が他の民族を特定の領域から強制的に排除する政策を指す一般的な現象だが、近年では、国際法、政治学、社会学、歴史学の術語として確立しつつあるといえるだろう。本研究では、民族浄化という概念を、民族が国家主権の基礎となるという国民国家理念に基づいて、こうした国家を建設、強化、維持、拡大するために、その現実、もしくは潜在的な領土となる領域から、主権民族の構成員以外の人々を、強制力を行使しつつ排除する行為であるとする作業仮説を提起し、この仮説に基づいて上記地域を中心に類似した現象を比較検討することで、仮説の有効性を検討することを第一の目的としている。具体的に解明をめざす課題は、次の4点である。

(1) 民族浄化の原形となった、ボスニア、コソヴォでの虐殺、集団強姦、強制収容所、住民追放の実態を調査し、こうした暴力を生み出した政策、理念がいかなるものであったのかを分析すること。

(2) ジェノサイド(集団虐殺)と民族浄化の共通点、及び相違点を包括的に検討し、歴史研究のための一般性をもちうる分析概念としての確立を行うこと。特に、 1915 年のアルメニア人大虐殺、ナチスのホロコーストなどのジェノサイドと呼ばれる現象と、民族浄化の諸現象を比較検討すること。

(3) 集団的強制移住が行われた諸事件の比較研究により、これを民族浄化の一形態と位置づけられるかを検討すること。

(4) 国民国家建設に附随して発生した民衆の自然発生的暴力を民族浄化と位置づけられるかどうかを検討すること。具体的には、 19 世紀ウクライナのポグロム、ブルガリア独立運動におけるムスリム虐殺、印パ分離独立に際してのカシミール分割、イスラエル建国とパレスチナ難民問題の間に見られる共通性の解明を目指している。

 

研究班<アジア・アフリカ・南北アメリカ・オセアニア>

地理的には広大な範囲をカバーする研究班であるが、相互に関連する3つの問題意識に沿ってワークショップを開催し、議論を深めていきたい。

第一に、武力紛争に伴うジェノサイドの問題である。この地域は発展途上国が大部分を占めるが、そこでは第二次世界大戦以降、とりわけ内戦という形をとりながら武力紛争が頻発し、しばしばそのなかで大量殺戮が起こっている。この原因や殺戮の態様などについて、比較を念頭に置きつつ議論していきたい。

第二に、先住民に対するジェノサイドである。移民国家や植民地などにおいて、先住民に対する身体的・文化的なジェノサイドが実践されてきたことは歴史的事実である。比較的注目されることが少ないが、歴史的な意味でも、また今日的にも非常に重要な問題である

。 第三に、ジェノサイド以降の社会変容に関わる問題である。ジェノサイドというきわめて苛烈な経験を持った社会は、その後どのように変容したのか、あるいはしつつあるのか。内戦後の国家と社会が直面する国民和解や、先住民の社会統合、さらには被害者に対する補償問題などが議論の射程に入る。

本研究班の研究課題は、すぐれてアクチュアルな性格を有するが、多くの専門分野から報告者を招き、討論を重ねたい。 2004 年度については、4月にカンボジアに関するワークショップを予定しているほか、グアテマラ、ルワンダなどについても議論する予定である。

 

研究班<東北アジア>

本研究班では、日本とアジアとの関わりを柱にして、ジェノサイドの諸相を議論していきたいと考えている。

そのなかで第一に、日本が台湾・朝鮮などを植民地として領有するなかで発生した身体的・文化的ジェノサイドの具体的様相とその社会に与えた影響について、欧米の植民地支配とも比較しながら検討していきたい。そのなかでは日本本国内に流入した(あるいは連れてこられた)朝鮮半島・台湾出身者(さらには中国大陸出身者)に対するジェノサイドもとりあつかわれるであろう。

第二に第一次大戦以降、とりわけ満州事変以後日本が中国に対する武力侵略を遂行する過程で発生した殺戮について、その原因および事実解明の作業と議論をすすめていきたい。

第三にわれわれが考えなければならないと思うのは、こうした歴史的事象をめぐる認識と対応が、日本とアジア諸国の「歴史問題」として今日でも日本外交の懸案事項となっている現実である。日本とアジア諸国との和解や過去の克服にとって何が必要であるかの議論も当然深めていきたい。

年に数回のワークショップを予定しているが、さらに 9 月、関東大震災時の朝鮮人・中国人に対する虐殺問題について国際シンポジウムを計画している。