アウシュヴィッツが投げかける問い−21世紀はこれにどう答えるのか

日程・会場他

・日時:平成19年11月17日 (土)
・場所:コミュニティサテライトオフィス(松坂屋岡崎店6階 岡崎市康生通西3−15−4)

 

 

 

 

 


今回のサイエンス・カフェの趣旨は、20世紀に生起したジェノサイドから、「古典的事例」というべきホロコースト(ナチ・ドイツによるユダヤ人虐殺)と、第一次世界大戦下のオスマン帝国におけるアルメニア人虐殺を取り上げ、これらのジェノサイドが21世紀の世界に提起する問題について、研究者と市民が率直に討論することにあった。


まず、石田がホロコーストの展開とその社会的、歴史的背景について、また瀬川がアルメニア人虐殺について、国際法や国際刑事裁判所(ICC)とジェノサイドの関連を含めて、導入的な報告を、パワーポイントでビジュアル資料を示しながら行なった。
その後の質疑・討論では、アルメニア人虐殺の経済的基盤、オスマン帝国における民族概念、ドイツ国内の抵抗や周辺国の対応、ジェノサイドの発生条件など多岐にわたる論点が出され、活発な意見交換が行われた。


討論に加わった吉村と兼清は、ジェノサイド研究の最先端の成果をわかりやすく説明し、議論の深化に貢献した。吉村は、ヨーロッパから流入した言語ナショナリズムの影響を受けて、トルコにおける民族概念が宗教から言語を基準とするものへと変容したこと、人種・民族的な偏見だけでなく、対ロシア戦争のなかで強化されたアルメニア人を警戒・敵視する意識も虐殺の背景となったこと、また兼清は、ジェノサイド後の社会再建の取り組みの観点から、当事者にとってジェノサイドの被害は半世紀以上を経た現在も続いていること、現代社会に存在するジェノサイドの要因をひとつひとつ解体していくことの必要性などを指摘した。


これらの議論を通して、上記二つのジェノサイドには、国民国家の形成・再編、強制移住、近代諸科学との関係、殺戮技術の学習・伝播、戦争が及ぼす作用、事後の取り組みや記憶など、多くの共通する要素があることが確認された。最後に、石田が本プロジェクトの研究成果を踏まえ、「脱ジェノサイド社会」に向けてのいくつかの方策を提起して議論が締めくくられた。文字通り「カフェ」に倣ってお茶菓子を用意し、花や音楽を用いた演出と会場設営の工夫も奏功し、約2時間半にわたる会合は、市民と研究者あわせて40名ほどの参加を得て、和やかな雰囲気のなかに熱意のこもった有意義なものとなった。 文責 福永美和子

                                      
<参加研究者>
話題提供
石田勇治(東京大学・大学院総合文化研究科教授)
瀬川博義(愛知産業大学・経営学部教授)
討論参加
吉村貴之(東京大学・産学官連携研究員)
兼清順子(立命館大学・国際平和ミュージアム学芸員)
司会
福永美和子(日本学術振興会・特別研究員)